小学校のプログラミング教育の問題点と家庭で簡単にできること3選

2020年度より、プログラミング教育が小学校で導入されました。コンピュータのはたらきを身近に感じ、活用する姿勢や考え方を学ぶことになりますが、問題点はないのでしょうか?

そこで今回はプログラミング教育の目的をおさらいしながら、現状の問題点を明らかにしてみます。あわせて、プログラミング教育の一環として、家庭でも簡単にできることについて3つご紹介します。

小学校で行われるプログラミング教育のねらいと問題点とは?

2020年度から、すべての小学校においてプログラミング教育が必修になりました。では、なぜプログラミング教育を必修にするのでしょうか?「小学校プログラミング教育の手引き」(文部科学省)によると、主な目的は次の2つです。

  • プログラミング的思考を身につけること
  • 情報社会を支える情報技術について知り、活用する態度を育むこと

まずはこの2つを解説します。

プログラミング的思考を身につけること

まず、1つ目のプログラミング的思考を身につけることについてです。

「プログラミング的思考」とは「自分が意図する一連の活動を実現するために、どのような動きの組合せが必要であり、 一つ一つの動きに対応した記号をどのように組み合わせたらいいのか、記号の組み合わせをどのように改善していけばより意図した活動に近づくのか、といったことを論理的に考えていく力」を指します。(「小学校プログラミング教育の手引き」より抜粋)

このままの文章ではイメージしにくいので、身近なところで、料理レシピを例に具体的に考えてみます。 

たとえば、「玉ねぎとろとろのビーフシチュー」を作るレシピとして、以下の手順を考えます。

  1. 玉ねぎを細切りにする
  2. 牛肉を食べやすい大きさにぶつ切りする
  3. 細切りにした玉ねぎを飴色になるまでじっくり炒める
  4. ぶつ切りにした牛肉を加えてささっと炒める

すると、一例として、「意図する活動」「必要な動き」「記号化」は次のように定義できます。

  • 意図する活動:玉ねぎとろとろのビーフシチューを作る
  • 必要な動きと記号化
必要な動き 記号化
●●を細切りにする CUT_SMALL  ●●
●●をぶつ切りにする CUT_LARGE  ●●
●●を鍋に入れる ADD  ●●
鍋の中身をじっくり炒める COOK_LONG
鍋の中身をささっと炒める COOK_QUICK


以上を踏まえると、レシピは以下のような組み合わせで記述できます。

CUT_SMALL onions -> small_onions (玉ねぎを細切りにする)

CUT_LARGE meats -> large_meats (牛肉をぶつ切りにする)

ADD small_onions (細切りの玉ねぎを鍋に入れる)

COOK_LONG (鍋の中身をじっくり炒める)

ADD large_meats (ぶつ切りの牛肉を鍋に入れる)

COOK_QUICK (鍋の中身をささっと炒める)

いかがでしょうか。いかにもプログラミングっぽい書き方になりましたね。このように、プログラミング的思考とは、「シンプルな記号で動きを整理してわかりやすく表現すること」と言い換えても良いでしょう。

 

情報社会を支える情報技術について知り、活用する態度を育むこと


次に、2つ目の
「情報社会を支える情報技術について知り、活用する態度を育むこと」についてです。

日常生活の様々な場面で、コンピュータが活用されています。家電製品、公共交通機関、スマートフォンなど、身近なものには皆、コンピュータが使われています。まずは、この事実に気づくことが最初の一歩です。コンピュータが生活を便利にしていることに気づき、好奇心が自然と生まれることが大切です。

また、プログラミングの体験を通して、コンピュータについて主体的に理解していくことも大切です。コンピュータはプログラムで動いていること、プログラムは人が書いていること、コンピュータには得手不得手があることを知り、実際に活用する態度を身につけていきます。

プログラミング教育について、詳しくは以下の特集ページをご覧ください。

 

小学校のプログラミング教育必修化の問題点

プログラミング教育が必修化される目的を達成するためには、いくつかの問題があります。

その内の3つを紹介します。

教員は忙しい・・・

小学校の教員は、ハードワークです。「教員勤務実態調査(平成28年度)」(文部科学省)によると、小学校教員の1日当たりの平均勤務時間(持ち帰りも含む)は、11時間45分です。

会社員のように1日8時間を標準勤務とすると、1日平均4時間近くの残業をしていることになります。

しかも、学校では、朝出勤してから帰るまで、休む時間はほとんどありません。特に小学校の場合、午前も午後も授業がびっしりで、1日のうちに空きコマがあればいい方です。

昼休みですら、子どもの指導で休めません。仕事の持ち帰りも日常茶飯事で、帰宅してからは、翌日の5、6時間分の授業の準備があります。運動会や遠足などの行事があれば、その時期はさらに忙しくなります。 

また、最近は、急速に授業のオンライン化が進み、教員の働き方が変わってきています。これまでの仕事に加え、オンライン環境の整備や、授業のコンテンツづくりなど、新たに仕事が増えています。

本来なら、専門外のプログラミング教育について、しっかりと学ぶ時間が必要ですが、その余裕はほとんどありません。このままでは授業に十分なスキルは得られず、教員の指導力不足が懸念されます。

ICT環境整備の不足

ICTとは「Information and Communication Technology(情報通信技術)」の略で、コンピュータやインターネットなどの情報技術、通信技術の総称です。つまり、ICT環境とは、「コンピュータ、無線LAN、大型ディスプレイなどの機器を授業に導入して活用する環境」と言えるでしょう。

2019年11月に開かれた経済財政諮問会議で、議長の安倍晋三首相は、「教育現場でパソコンが1人に1台ずつ普及するのは当然」との見解を示しました。

しかし、「平成30年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」(文部科学省)によると、学校のICT環境はまだまだ整備不足であることが明らかになりました。

2019年3月では、教育用コンピュータ1台当たりの児童生徒数は5.4人です。ここ5年では6.4人から5.4人と改善されていますが、1人1台には程遠い数値です。また、都道府県別に見ると、一番良い佐賀県で1台あたり1.9人、一番悪い愛知県で7.5人と都道府県により大きな開きがあります。 

一方、ネットワークに関しては、学校ごとのインターネット接続率(回線速度30Mbps以上)は93.9%です。しかしながら普通教室での無線LAN整備率は41.0%です。タブレットを使った授業が標準になるのは、まだずっと先のことのようです。

ネットリテラシー教育の不足

そもそも「ネットリテラシー」とはなんでしょうか?「青少年がインターネットを安全に安心して活用するためのリテラシー指標」(総務省)によると、ネットリテラシーは、次の3つの能力として定義されています。

  • インターネット上の違法コンテンツ、有害コンテンツに適切に対処できる能力
  • インターネット上で適切にコミュニケーションができる能力
  • プライバシー保護や適切なセキュリティ対策ができる能力

年々、小学生のインターネット利用率は増えています。しかし、多くの小学生は、こうした能力を身につけないまま、インターネットを利用しています。

内閣府や関係省庁では、ネットリテラシーの普及啓発のために、様々なコンテンツを用意しています。今後は、こうしたコンテンツを積極的に活用して、学校や家庭において、ネットリテラシーの学びの機会を作ることが大切です。

ネットリテラシー教育について、詳しくは以下の内閣府のページをご覧ください。
→令和2年「春のあんしんネット・新学期一斉行動」

 

プログラミング教育の問題点が解消される見通しはある?

教員向けポータルサイトや企業との連携

問題点としてあげた、既存の学習時間への影響についてですが、算数、理科、総合的な学習の時間では、プログラミングを使って知識理解を深めるとされています。例えば、プログラミングによって正方形を描いたり、人の有無や部屋の明るさによって自動的に扇風機を制御するプログラミングの体験をすることが示されています。

確かにプログラミングの導入、知識を印象づけて覚える場面では役に立ちそうですが、一方で漢字や計算練習などは反復学習なしには定着しません。この時間が授業時間でとれないとなると、基礎学力は片手落ちになることも考えられます。 

「ICT活用教育アドバイザー」の派遣

ICT環境整備を進めるための策としては、学校のICT環境の整備など教育におけるICT活用を図ろうとする教育委員会(自治体)のニーズに応じて、「ICT活用教育アドバイザー」を派遣することが決まり、平成27年より実施しているようです。 

参考:ICT活用教育アドバイザー派遣事業(文部科学省)

2020年大流行した感染症で急速に普及するオンライン学習

2020年は、新型コロナウイルス感染症が大流行し、感染拡大防止策として、多くの小学校が休校となりました。東京都の場合、2月末から6月上旬まで3ヶ月以上も休校にした学校がほとんどでした。

この間、学校は、子どもに対して自宅での自己学習を促していましたが、思わぬ長期化で、別の方法を考えざるを得ない状況になりました。その一つが、インターネットを使ったオンライン学習です。

私立などのICT環境が整っている学校では、オンラインで授業や朝会を行うところが多かったようです。ところが、環境が整っていない多くの学校では、限られた時間の中、文部科学省が提供するオンライン教材の紹介や、宿題の進め方を説明した動画の配信など、最低限の環境整備で精一杯でした。今後に備え、各小学校では、オンライン学習がスムーズに行えるICT環境の整備が急務となり、上記のような問題を解決せざるを得ない状況になっています。

また、自粛期間中のオンライン学習により、子どもたちがインターネットにアクセスする機会が大幅に増えました。フィルタリングなどで有害なコンテンツをブロックすると同時に、子どもたちへのネットリテラシー教育が必要に迫られていくため、授業で取り入れる学校も多くなることが考えられます。

オンライン学習について、さらに知りたい方は以下のページをご覧ください。

家庭で簡単にできること3選

学校では前章であげたようにプログラミング教育が満足に行われる体制が整うにはまだ先になりそうです。
そこでプログラミングの必要性の高まりと共に家庭でもできることを解説します。

日常生活から学ぶ

プログラミングというと、「専門的でなんだか難しそう」という先入観を持つ方が多いようです。ところが、私たちはすでに、日常生活の中でたくさんのプログラミングに触れています

たとえば、交差点の信号機。車や人がスムーズに行き来できるように、信号機の動作がプログラミングされています。例として、進行方向の信号は、必ず交差する道路の信号が赤になった後に、青になります。また、車の信号が赤になるときは、必ず青→黄→赤の順番で点灯します。 

家庭内では、電化製品が分かりやすいでしょう。洗濯機、電子レンジ、炊飯器などはすべてプログラミングされています。たとえば、電子レンジを使って、お子さんにこんな風に話してみてはいかがでしょうか。

「『あたためスタート』のボタンを押してごらん。冷蔵のおかずと冷凍のご飯だと、温めの時間が全然違うでしょう?電子レンジは、食べ物の温度を測って、ちょうどいい時間と強さで、食べ物を温めるようにプログラミングされているの。」

このように、実際の電化製品の動きを見ることで、子どもはプログラミングを身近に感じ、好奇心や探求心を持つようになるでしょう。

動画でも解説していますのでこちらもご覧ください。

家庭で使えるプログラミング教材を使う

低学年向け

家庭でプログラミングを学ぶにあたり、教材選びはとても大切です。特に低学年は、内容や難易度が適切でも、子どもがおもしろいと思えなければ、かえって苦手意識を植え付けてしまいます。まずは、好きになってもらうことを第一に考え、子どもの好みから教材を選ぶのが良いでしょう。

たとえば、ロボット好きのお子さんなら、ロボット作りからプログラミングまで学べる「ロボット教材」がおすすめです。プログラミングによって、自分の組み立てたロボットを思い通りに動かせます。パソコンやタブレットの中のアプリではなく、リアルなロボットを動かせるのがこの教材の醍醐味です。

また、お絵かきが好きなお子さんなら、プログラミングで簡単なアニメーションやゲームなどが作れる「Scratch」のような学習ソフトがおすすめです。Scratchは、専用のウェブサイトにアクセスするだけで、誰でも無料で使えます。特別な環境を必要とせずに、すぐにプログラミングが始められる導入のしやすさが、この教材の一番の魅力です。

高学年向け

高学年になると、より高度で複雑なプログラミング教材にも挑戦できるようになります。低学年向けの教材も使いつつ、子どもの好みと発達段階に応じて、新しい教材を選ぶのが良いでしょう。

たとえば、ものづくりが好きなお子さんなら、「シングルボードコンピュータ」という小型のコンピュータがおすすめです。現実世界のものを動かせるところは、ロボット教材に似ていますが、より高度で複雑なことができます。たとえば、イギリスBBCの開発した「microbit」は、プログラミングでLEDの光を制御したりモーターを回したりできます。

さらに高度なプログラミングに挑戦したいお子さんなら、オンラインのプログラミング学習サイトに登録するのも手です。たとえば、「Progate」なら、受講者のレベルに合わせて、初級編、基礎編、実践編のコンテンツが用意されています。無料から始められるので、まずは気軽に登録してみてはいかがでしょうか。

年代別のプログラミング教材について、詳しくは以下のページをご覧ください。

おわりに

以上、プログラミング教育の問題点と国の対応策、そして家庭でできる取り組み例を紹介しました。

小学校の段階で大切なのは

プログラムを身近に感じる
・活用しようという姿勢やそのために必要な論理的思考の習慣や方法を育む
・思考力の土台となる「読み書き計算の力」をつける

この3点といえるでしょう。

プログラミング教育は、子ども達の様子や現場の先生の声を元にブラッシュアップされていくと思います。並行して家庭では電化製品を活用するなどして、まずは子ども達がプログラミングを身近に感じられる関わり方をしていけるといいですね。