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子どもたちのための性教育〜家庭で何を伝えるか〜

親の学び
公開日:2021年7月2日 更新日:2024年10月18日
子どもたちのための性教育〜家庭で何を伝えるか〜

今回は包括的な性教育とは言えない、日本の学校の性教育。
親としてできることはあるのか、性教育の専門家に聞きました。

性教育について、こんなイメージがありませんか?
性教育と聞いて、みなさんはどういったイメージを持ちますか?
例えば・・・
「なんとなく学んでいくもの。」
「学校に任せたい。」
「かえって性に開放的になってしまう。」
「そもそも何を教えれば良いかわからない。」
「子どもたちに教えるのは恥ずかしい。」
これらに共通するものは、性を「恥ずかしいものである」とタブー視してしまっていること。
しかし、本当に性はタブー視され、「恥ずかしいもの」とされるべきなのでしょうか。
私たちは、そうは思いません。
性行為も含めた広義の性教育を、人が生きていくために大切なものだとして捉え、性教育のイメージを変える必要があると思っています。
現在は、これまでの時代より性教育に向き合う必要がある時代になっています。なぜなら、大量にインターネットに溢れたアダルトビデオに子どもたちは簡単にアクセス出来てしまい、偏った性知識を身につけてしまう恐れがあるからです。
また、日本の学校で教わる性教育は、性教育の中でも極一部でしか無いため、多くの方が子どもにどう伝えたら良いのかわからないと感じることは当たり前です。

包括的な性教育

この記事では、海外で行われている「包括的な性教育(comprehensive sexuality education (CSE)」をガイドに、子どもたちにどのようにして「性」を伝えていくかを解説します。
2009年にユネスコが中心となり定められた国際セクシュアリティガイダンスによると、5歳から性教育を開始することが推奨されています。
 


 
このガイダンスでは「包括的な性教育(comprehensive sexuality education (CSE)」とは、生殖だけではなく、社会や文化、感情や人間関係なども含めたものだと定義しています。
 
包括的な性教育では「人間関係」「価値観、セクシュアリティなど」「ジェンダーの理解」「暴力と安全確保」「健康と幸福のためのスキル」「人間のからだと発達」「セクシュアリティと性的行動」「性と生殖に関する健康」といった8つのキーコンセプトに基づくトピックや学習の目標が立てられています。これらを子どもたちの年齢や能力に応じて、学校やコミュニティを通して伝えていきます。
 
例えば、ドイツでは日本の中学1年生にあたる生徒たちが、生物の授業で「避妊」を学びます。授業では、コンドームを木製のペニス模型に装着する練習も行うなど、実践的な内容を扱っています。
 
オランダでは「春のソワソワ」という教材を利用し、4歳児から性教育が始まります。11歳では性機能の仕組みを教えています。教材を使い男女の性器の造りやマスターベーション、性行為について詳しく解説しています。
 
子どもが自分のからだや性的な機能について年齢に応じた興味をもつのは自然なことです。それをタブー視するのではなく、子どもが性に対する間違ったメッセージや知識を得る前に、科学的根拠に基づいた正しい知識や認識を伝えることが大切です。そのことが自分や他者を守り、健康で幸福な生活の基盤となります。
 
こうした取り組みにより若者の性行為や性感染症の罹患率が増えないことが報告されています。若者の性に対する知識が向上し高い効果をもたらしていることがうかがえます。

専門家に性教育のこと、家庭での伝え方を聞きました

今回は包括的な性教育とは言えない、日本の学校の性教育。親としてできることはあるのか、性教育の専門家に聞きました。

大石 真那さん

4児の母でありながら、日本の性教育を変えたい!という思いで、乳幼児や小学生の保護者を向けを中心に性教育の講座を開催している


みらいいー大石さんよろしくお願いします!まず大石さんが性教育の講座を始めたきっかけを教えていただけないでしょうか。

大石さんー下の子を出産した後、上の子から「赤ちゃんはどうやって生まれるの?」と聞かれたことです。その時に、大切なことなので誤魔化さずに伝えたいと思って色々と調べ始めて、今に至ります。
 
みらいいー「コウノトリが運んできた」といった誤魔化しをしなかったのですね。

大石さんー私の場合、保健師として他の方より学んできたものがあったのですが、どうしたら上手に伝えられるかまで自分自身が学んだことがないなと思ったのです。
そこで海外の性教育を調べていく過程で、海外は包括的な性教育が謳われており、性教育の定義が日本と違うことに気付きました。

包括的な性教育

日本の性教育

 

みらいいーそもそも、同じ人間なのに、日本と海外の性教育の捉え方が違う理由はどこから出てくるのでしょうか。

大石さんー日本の学校教育における性教育は、学習指導要領による歯止め規定によって制限されているのです。どういうことかというと、受精についてや、受精卵が妊娠後に胎内でどのように成長するかについては教えますが、「受精に至る過程=性行為」については触れないという規定になっています。
また、性行為については触れないけれど、性感染症については教えるということになっていたりします。
 
大石さんーただ、これまで日本では性教育というとこうした「生殖」に関するものばかりのイメージでしたが、
2021年4月からはデートDVといった暴力やSNSのリスク、水着で隠れるプライベートソーンを他人に見せないことなど、新たに「生命の安全教育」を行うということになっており、今後の動向に注目しています。

みらいいーなぜ日本は歯止め規定があるのでしょうか。

大石さんー日本の昔からの性教育は「純潔教育で結婚するまでは性行為しない」という教えでした。ところが、1980年代にエイズの患者が爆発的に増えたことをきっかけに性教育が活発化しました。しかし、七生養護学校事件をきっかけに日本の性教育が再度衰退していくこととなってしまい、今に至ります。
現在は、熱意のある先生がいる場合など例外はあるでしょうが、歯止め規定の存在により学校が性教育に積極的になれない場合が多いのが現状です。

みらいいーそれはつまり、学校における性教育には、限界があるということですか。

大石さんーその通りです。学校が子どもたちに伝えきれない性教育を家庭が担っていけるといいですね。

大石さんおススメ!家庭でできる性教育

みらいいー性教育を家庭で担うということですが、具体的にどのようなことをすれば良いのでしょうか?

大石さんーどのように伝えれば良いのか迷っていしまいますよね。では、家庭でできる性教育を5つお伝えします。

その1 学校の授業でどんなことを習ったのかを聞く

 
小学生になると、小さい頃のように素直に子どもの方から質問してきてくれません。親からも性の話をするきっかけが少ない中で、授業のことを聞いてみるのが良いきっかけになるかな、と感じます。
例えば、5年生の理科で、ヒトの受精やメダカの受精について習いますよね。それ以外では、何年生でどんな話、というのは学校によって異なりますが、いまだに野外活動の前に女子だけ月経の手当ての話を聞くところもあるし、外部講師を呼んで性教育講演会をするところもあります。
そんな時に、「どんな話を聞いてきたの?」と聞くことで、性の話をするいいきっかけになると思います。

その2 早い時期から正確な情報を伝える

 
今の時代は子どもであってもスマホやタブレットでネット検索ができ、意図せずいろんな情報を見てしまうことがあります。
例えば動画について言えば、その動画が作り物だと理解できない年齢の時に見てしまうと、それが本物かのように間違った知識を身に付けてしまう可能性があるので、早い時期から正確な情報を伝えていくのが大切です。
ただ、これからの性教育はそういう狭義の意味だけではなくて、包括的に進めていかなくてはいけないと思っています。(先に出てきた「包括的な性教育」参照)
国際セクシュアリティ教育ガイダンスでは5歳からとなっていますが、何歳であっても、興味を持って質問してきてくれた時から始めるのがおすすめです。もっと言えば、自分の体の大切さについては赤ちゃんの時から伝えられると思っています。
 

その3 ドラマやニュースを見て伝える

 
思春期は子どもと話すきっかけがどんどん少なくなると思うので、話すきっかけをとにかく親の側が探そう!という感じです。
暴行のニュースやドラマのちょっとエッチなシーンや、暴力的なシーンなど、きっかけは色々とあります。
最近では、緊急避妊薬のことをニュースで取り上げていたり、望まない妊娠から一人で出産して遺棄容疑で逮捕される事件があったり、といったニュースが報道されていました。ぜひ意識してドラマやニュースを見てください!

その4 人間関係、コミュニケーションについて伝える

 
人が嫌がるようなことはしない、相手の気持ちを確認する、自分が嫌なことをはっきり伝えるなど性教育にも関係してくる人間関係についてしっかり伝えることが大切です。
また、親から子へのスキンシップも子どもが嫌がっていたらやめるようにしないとそれが普通だと思い込んでしまう可能性が出てきます。

その5 高学年の子どもには同性の親から自分の経験談も踏まえて伝える

 
高学年になると性について異性の親子で話すことに気恥ずかしさを感じることもあるでしょう。
また、同性なら性の疑問やトラブルについて、子どもの気持ちに寄り添い実感のこもったアドバイスが期待できます。
例えば、経血が多い時の対処法や生理痛のやわらげ方など、自分の経験談を交えたりや子どもの状態や性格に合わせたりしながら具体的なアドバイスができます。
ただ、思春期になると親と話したくない子がいるのも自然なこと。そんな時は無理に話さず、「困った時はいつでも話を聞くよ」という姿勢を示しておくことが大切です。
 

大石さんー以上が家庭でできる性教育になります。
この他に本を読むこともおすすめです!おすすめの本を3つ紹介します!
 
みらいいーありがとうございます!

大石さんのおススメの本

『あっ!そうなんだ!性と生』浅井春夫・北山ひと美・中野久恵・星野恵・安達倭雅子(2014)エイデル研究所

体のつくりや生と死のこと、性被害から身を守る方法やジェンダー、性の多様性のことなど、幅広いテーマについて幼児にもわかりやすい説明が書かれていることに加えて、大人への解説も充実しています。


『CHOICE』シオリーヌ(大貫詩織)(2020)イーストプレス

性教育Youtuberのシオリーヌさんの著書。妊娠、避妊のことから自分らしく生きることまで幅広く取り上げられた内容となっています。テーマごとにYoutube動画のQRコードの記載もありますので、文字だけではなく子どもたちが大好きなYoutube動画で学ぶこともできる教材です。


【性教育YouTuber】シオリーヌ - YouTube

『おうち性教育はじめます』フクチマミ・村瀬幸浩(2020)KADOKAWA

保健体育教師として、性教育に関わってきた先生が書いた本で、「うちに赤ちゃんはくる?」と言った突然やってくる子どもからの素朴な質問への答え方から、性犯罪の被害者や加害者にならないための日々の声かけ、思春期に訪れる男女の心と体の変化まで親子で一緒に学ぶことができる1冊です。
毎日の家族の会話で子どもを守り、これからの時代を生き抜くための力を養うことができるでしょう。




大石さん
他にもオススメの本をインスタグラムに載せています。ぜひ手に取って読んでみてください!

 

みらいいー大石さん、ありがとうございました!

夫婦で話し合う機会を作ろう

子どもたちは学校や家庭、友人やメディアなどさまざまなものを通して性に触れます。
海外と比較すると、日本の性教育への取り組みは十分とは言えません。
そのため年齢ごとに芽生える子どもの興味や考えを理解していくためには、お父さん・お母さんが、まずは自分自身の性の価値観を見つめ直し、性教育について話し合い、正しい知識を得ることが何より重要です。
同性の親から子どもへ経験談として伝えればより具体的な細やかな対応が期待できます。異性の子どもに伝える場合は、わかる範囲で誠実に伝えることが重要です。
もし、身近に信頼できる同性の大人がいれば、自分の代わりに伝えてもらう、いざという時の相談役になってもらう、というのも良いですね。
性教育は子どもたちが健康で幸福な人生を送るために必要な学びです。子どもの未来を守るためにも、まずは私たち大人が正しい知識や認識を身に付け、伝えていきましょう。

全ての子供達に包括的性教育を☆4児ママ保健師まなっぺのブログ

【参考文献】
『おうち性教育はじめました』
『国際セクシュアリティ教育ガイダンス【改訂版】』
『JASE現代国際ジャーナル 2016年 No.67』2016年10月15日発行,(最終閲覧日:2021年3月16日)
『朝日新聞DIGITAL 「性教育、家庭でどう伝える? 機会逃さず、親も知識を」』2018年7月23日(最終閲覧日:2021年3月16日)
『NHK NEWS おはよう日本「変わるか?日本の“性教育”」』2020年10月7日最終閲覧日:2021年3月16日)
『NHK NEWS WEB「変わるか?日本の“性教育”」『2020年10月6日(最終閲覧日:2021年3月16日)
『小 倉 由紀子,北 川 眞理子「家庭での性教育における親の果たすべき役割」』(最終閲覧日:2021年3月16日)

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