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国際基準の「子育て」〜好きなことを探して、見つかったら〜

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国際基準の「子育て」〜好きなことを探して、見つかったら〜

子育てで悩んでいる、これから子育てが始まる、子育てがひと段落したママ・パパに是非読んでほしい!元Micorosoft主幹マネージャ、自身も2人の子どもを持つ親でもあり、米国在住の鷹松弘章氏による連載コラムです。
今回は「好きなことを探して、見つかったら」についてです。

興味・趣味・関心の多さは将来の選択肢を増やす

前回、子供が長続きしないのなら、ほかに好きなものを見つけるために無理に長続きさせる必要はないと言いました。好きなことというのは、それほど簡単に見つかるものではないので、子供達の限られた時間を考えると、より多くのものに出会って興味の持てるものに触れることは大切です。
そして何よりも、親としては子供の知識が増えたり、できることが増えることは学校教育に匹敵するほど嬉しい財産となるのは間違いありません。
そして更に言うと、趣味や興味の多さは、今の日本の学生の多くが抱える問題、就活での職種・業種研究を容易にするはずです。
例えば、鉄道に興味を持った子供は、鉄道関係で働く人がどのような分担をしているのか自然と学んで行くでしょう。運転手・駅員・車掌・保安員・車両の設計者、そして車両が色々な重工系の会社で作られていることにも気づいていきます。
私の娘のようにバレエに熱中し始めると、ヨーロッパを中心に手作りでトゥシューズを作る職人さんがいることや、舞台装置を開発したりデザインしたりする人、ボランティアで会場の案内をしている人、そしてそう言う人たちを目の当たりにすることで、どんな年代でどんな適性を持った人がそこで働いているのかということに触れていきます。
そうして、実は幼少の頃から親というのは、好きなこと探しで未来の就職活動のお手伝いができるわけです。

好きなことが見つかったら手出しをせずサポート役に

さて次に、子供が好きなことを見つけたら、我々親はそこから何をしたらよいかを考えてみます。
「何もしないで応援をしてあげてください」といつも言いたいのですが、なかなかこの意味を理解してしてもらうことは難しいようです。
私の言う「何もしない」という言葉の真意は、日本の古い言い回しにある「転ばぬ先の杖」をつかないという意味なんです。まだ子供である彼らは、大人である我々親から見れば未熟なところがたくさんあります。このコラムの最初に書いたとおり、親というのは「苦労してほしくない」という気持ちが強いものですよね。
しかし、子供が親と一緒に生活している時期というのは、子供にとっては社会に出ていって好きなことで生きていくための言わば「訓練」の時間なのです。訓練というのは、簡単に言うと「成功体験」や「失敗体験」のような「経験」を積み重ねて、成熟していく過程のことです。
でも、要らぬ親心で「失敗体験」ができるチャンスの時だけ手を出してしまうのが、親の性です。厳しいようですが、私は親の転ばぬ先の杖をつく行動は、「百害あって一利なし」と言いたいのです。子供が経験を重ねようというまさにその瞬間に、失敗を回避することができる経験値を持つ我々親が、口出ししたり手を貸してしまう。私も親として経験がたくさんありますが、転びそうになっている子供を助けたくはなります。命に係わるようなことであれば別ですが、そうでなければ子供の経験値が得られるその失敗体験を親が奪う権利はないのです。むしろ、「育てる」という観点から見れば害にしかならないし、子供の経験を尊重していない行動と言えます。よく「熱いものに触ってみて初めて本当にの熱さがわかる」と言いますよね。

日本人とアメリカ人の違い

私の娘が幼稚園に入った当初、アメリカとの文化もあり朝と午後の送り迎えを車で連れて行っていました。その幼稚園は日本人の子供とアメリカ人の子供が入り混じったところだったのですが、日本から来ている親の多くが、子供のかばんを持っている場面によく遭遇しました。確かに持ち物が多く、3,4歳の子供には重くも感じるものでもありました。親の気持ちとしては色々あるかもしれません。重いから可哀そう、まだ最初だから幼稚園にも慣れていないし私がしてあげよう、新しいかばんを買ってあげたのに落としたり引きずったりして汚してもらっては困る、理由は色々でしょう。
でも、周りにいるアメリカ人の親たちにも、私自身にとっても、こうした日本人の親の行動は、とても奇妙に映ります。何故かと言えば、それは成長していく過程で自分の物は自分でもつ基本動作の練習だからです。そこで毎朝親が子供の荷物を持つこと、これこそが「転ばぬ先の杖」であることに気付いていないのです。

「失敗」が大きく育てる

再度、私の娘の例ですが、娘が中学に入るころまでには、これからバレエに人生を捧げたいというぐらいバレエに没頭していました。そのころ、娘は毎年、アメリカの長い夏休みに5週間ほど、別の州や遠くの街にあるバレエ団の合宿に参加するようになっていました。たまたま私の出張時期、私が留守をしている間にその合宿の申し込み期限がくるタイミングでした。出張前に私は何回か娘に期限がくるし必要があれば出張前に話をしなさい、と言っていました。
しかし、日々のバレエレッスンと学校の忙しさに負けて、出張へ出かける前の私に相談をせず、案の定、申し込み期限を逃してしまいました。その合宿は、娘が数か月前に必死で受けたオーディションの一つで、しかも合格したことを喜んでいたので、本人としても是非行ってみたいと思っていたところでした。出張から戻った後、私と共に遅れたことを詫びて懇願する電子メールでそのバレエ学校へ連絡をとったところ、あっさりと「時期を逃したので今年はもう入れません」という返答でした。父として私は、出張前に無理にでも一緒に座って申し込み作業をする機会はありました。
しかし、冷静に考えていた自分を振り返ると、それが間違った親心「転ばぬ先の杖」をついてしまうことになることに気付いたので、敢えて手を貸さなかった[/color]のです。失敗する確率がある、転ぶだろうと感じているこの時点で私のような行動に出ることは、行きたがっている娘を見れば苦しいものでしかありません。意地悪なのではないか?という罪悪感さえ覚えます。
しかし、彼女のこれからの長い人生を考えた時、これほどの体験のチャンスは無い、一度の痛みで今後を覚えてくれるのならと自分に言い聞かせ、身を切る思いで「失敗」をさせたのです。この体験は、案の定、彼女を大きく育てた瞬間でした。
この体験以来、娘は徐々にこうした手続きを怠ると、好きなこと、したいことが出来なくなるのだということを学んだようで、16歳になるころには、私が何も知らない状態でも期限や提出手順を勝手に理解して(細かな失敗はまだありましたが)いつまでに何が必要だということを自分から私へ伝えるようになりました。もしあの時に手助けをして失敗させていなかったら、今の娘はなかったと思います。
このエピソードを読んで、「なんてひどい親なのだ」と思った方もいらっしゃるでしょう。
しかし私は、裏ではこの件ではサポートを怠っていなかったのです。実は、この期限を逃してしまった後、その空白になってしまう期間、彼女が別の場所で体験できることをいくつか頭の中に描いていました。失敗に気付き、落ち込み、叱られている彼女がひと段落した時に、「さて、これからどうする?」と13歳になる彼女に問いかけてみました。
そして、少しずつ質問をしていきながら、私の中であったオプションに辿り着ける道を進んで、その年は、別の国へ一人で飛行機に乗ってバレエを体験するという結果になりました。その体験を終えた彼女を見た時、親ながらにその成長ぶりに驚くほどで、数か月前のその失敗をした時とは比較にならないぐらい、自信をもっていて、少し大人びた彼女に成長していました。
この瞬間が親としての充実感を子供からもらえる時なのですね。「可愛い子には旅をさせよ」なのでしょう。そしてこの体験は、「転ばぬ先の杖」をつかないという私の持論を確固たるものにしましたし、側面からのサポートとはどういうことなのかということも教訓にしてくれた、親子にとってとても貴重なものになりました。転ぶという体験が人生全体でどのぐらいの影響があるかと考えたり、転んだ場合にどう寄り添って一緒に進んでいけば、親の経験値からのサポートになるのかを考えることができたのも親の私にとっても大きいものでした。
実は、この時、当時の私の妻はこの機会を逃した私と娘をとても責めていましたが、私としてはこんないい機会は巡ってこないのだという自信があり、結果的に娘を成長させることになったことでその責めについて取り合う気持ちは湧いてきませんでした。
すでに18歳になった娘ですが、この当初の話をそれ以来何度かしていて、私は「あれはとってもいい機会だったね」と彼女の失敗を彼女とともに楽しめる自分がいます。そして今考えると当初感じていたほどの大事(おおごと)ではないこともわかります。
好きなことを応援して、共に「成功体験」や「失敗体験」を喜ぶ、支えるというのは、言葉にするととても簡単に聞こえます。しかし、実際の親心とはどこにあるかという軸を見つけておかないと、親の軸がブレて余計な思いやりや優しさを与えてしまい、その体験から学ぶ機会さえ失わせてしまうという取返しのつかない「機会喪失」になるのです。上の例にもあるように「失敗体験」と「成功体験」とは、実は表裏一体の関係にあって失敗から学び、成功を勝ち取るという、社会に出るととても必要とされるスキルを身に着ける機会なのです。こうした場面の「機会喪失」をできる限りさせないという親の態度は、子供を尊重するということにもつながっています。

失敗から学ぶこと

社会に出て仕事をしている人には、わかりやすいことかと思いますが、成功から学ぶことよりも失敗から学ぶことのほうが人間の体験としての重みはとても大きく、ほとんどの「創業者」と言われる人、「成功している会社」と言われる団体・法人は、こうした「失敗体験」から多くを学んで成長しています。「失敗」の多い人は、実は「成功」の機会を増やしているのです。これは社会が人や会社を尊重しているからこそ、失敗が起こるわけで、子供に対してもこの「尊重」の気持ちを持ち続けることが大切なのかもしれません。下手な子供扱いは無用ということですね。
そう考えると、失敗しそうな我が子に手を貸すのではなくて、この失敗はどうした経験に結び付くか。失敗してそれを未来の経験に結び付けるのに親としてできる「側面的なサポート」とは何なのか。ということを常に考えていることが大切だと思うのです。
そして最終的には、そうした失敗体験から学び、学んだ事実を一緒に楽しめるようになることは子供の励みになりますし、子供も親に自分が尊重されていることに気付き始めます。その時に大切なことは自分のことは自分で決め、親に対してであっても決して他の人のせいにしないということでしょうか。改めて考えてみると親とはとても意識が強くないと務まりませんね。
こうしたことは日々の生活の中での小さなことでも当てはまります。

「転ばぬ先の杖」をつかない

ある時、私の息子がアメリカの公立中学校に通い始めた時、学校から配られる学校用のラップトップコンピュータを与えられました。娘もそうでしたが、私の住む地域の公立学校では宿題の提出、授業での配布物、かなりの場面でコンピュータを必要とするシステムになっています。息子はコンピュータがとても好きでそのラップトップコンピュータを受け取ることについてはとても喜んでいただのです。
ところが、息子は学校が始まった当初、自宅での充電をしてくるというルールのおかげで、自宅にラップトップコンピュータを忘れていくことが何回かありました。そのたびに、学校に設置されている電話から、授業で困るので急いで持ってきてほしいという彼からの連絡があり、私も職場などから自宅へ戻って届けるということをしていました。
そんな姿を見ていた学校の職員の方に、あるとき声をかけられて「次回から彼が忘れたら持ってこないでください」と言われたのです。その時、私ははっとしたと同時に自分のしている行動に赤面の思いになりました。その職員の方が私に続けて言った次の言葉が、私の心に突き刺さったのです。
「両親がこんなことを続けていたら、彼がコンピュータを忘れることで自分が困るということをいつまでたっても覚えませんから」
親も子供と共に成長するとよく言いますが、私も一緒に成長していることに恥ずかしくもなり、でも率直に指摘してくれたその職員の方に感謝の気持ちを持ったのです。これが教育者なのだなぁという感じでした。
子供の「好き」を一緒に発見する手伝いをし、「好き」を子供が見つけた後は、「転ばぬ先の杖」をつかずに彼らの体験を尊重して、側面からサポートする。
「成功や失敗を親や家族と共に喜ぶ」というのは、子供にとっては何にも代えがたい体験で、かつ一番の応援になることを忘れないようにしたいものです。そしてそうした体験を共有することで子供と親との絆は深まるのは間違いありません。
次回は、子供にしてはいけないことを教える方法、そして倫理観をという観点で考えてみたいと思います。いつも最後までお付き合いありがとうございます。

鷹松弘章

国際基準の「子育て」

①国際基準の「子育て」〜幸せとは〜
②国際基準の「子育て」〜好きなこと探し〜
③国際基準の「子育て」〜好きなことを探して、見つかったら〜
④国際基準の「子育て」〜「してはいけないこと」とは何か、どう伝えるか〜
⑤国際基準の「子育て」〜社会の迷惑を悪として捉え倫理観を育てる教育〜
⑥国際基準の「子育て」〜他人と自分が違うこと それは良いこと〜
⑦国際基準の「子育て」〜自分勝手で何が悪い。人は人、自分は自分〜
⑧国際基準の「子育て」〜お金とは何?という教育〜
⑨国際基準の「子育て」〜意味のあるお金の使い方の教育とケチ〜
⑩国際基準の「子育て」〜究極の目標子供の自立。実は親の自律が鍵だった〜
⑪国際基準の「子育て」〜人はなぜ生きるのか、徳の循環を伝える〜
⑫国際基準の「子育て」〜親の幸せを諦めないで。幸せな親にしか幸せな子供は育てられない〜
⑬国際基準の「子育て」〜現実的なこと「同性愛、男子、ひとりっ子」〜
⑭国際基準の「子育て」〜今からでも遅くない、障碍・鬱・年代別の子育て、そして最後に〜

1998年Microsoft Corporation日本支社へ入社。2001年からアメリカ本社にて技術職の主幹マネージャーとしてWindowsなどの製品開発の傍ら、採用・給与・等級などのレイオフまで携わり、米国企業の最前線で勤務。20年の勤務後、現在はデータ解析大手の米国Tableau Softwareシニアマネージャー。同時に東証一部上場のスターティアホールディングス株式会社社外取締役、NOBOARDER Inc. 社外取締役兼 CTO。2019年5月には「世界基準の子育てのルール」という本も出版。

※連載は週1度を予定しております
※内容は変更することがあります

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