子どもの読解力は落ちている?読解力が及ぼす影響とは
「文章を読み、理解する」力である「読解力」。学力の基盤ともなっています。
子どもたちの「読解力」が低くなってきていると、聞いたことはありますか?
もしそうであるなら、子どもの「生きる力」にも関わる事態です。
この記事では、「読解力」とはそもそも何なのか?本当に子どもたちの「読解力」は低くなってきているのか?「読解力」が及ぼす影響などについて解説します。
読解力とは?
そもそも「読解力」とは何でしょうか?
「読解力」に関しては、経済開発機構(OECD)が進めているPISA(Programme for International Student Assessment)と呼ばれる国際的な学習到達度に関する調査で定義されています。
それは「自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発達させ、効果的に社会に参加するために、書かれたテキストを理解し、利用し、熟考する能力」のこと。
参考:文部科学省 PISA(読解力)の結果分析と改善の方向(要旨)
まさに「生きる力」に直結するような能力です。
【生きる力特集】子どもの生きる力とは?育むためにできること
日本の子どもたちの読解力が2015年から大幅下落?!
PISA調査では15歳児を対象に読解リテラシー、数学的リテラシー、科学的リテラシーの三分野について、3年ごとに調査を実施しています。
直近では2018年と2022年(コロナ禍のため、1年延期)に行われました。
2018年の調査では、日本の順位が15位と、2015年の8位から大幅に下落したことにより、「読解力が落ちている」とされました。
ただ、2015年の調査より、筆記型調査からコンピュータ使用型調査(CBT)に移行したため、操作に戸惑ったことも順位低下の原因の1つと考えられています。
2022年の調査では、日本の順位は、全参加国中3位となっています。
順位が上がった原因の可能性として
- 新型コロナウイルス感染症のため休校した期間が他国に比べて短かったこと
- 学校現場において現行の学習指導要領を踏まえた授業改善が進んだこと
- 学校におけるICT環境(「Information and Communication Technology」情報技術)の整備が進み、生徒が学校でのICT機器の使用に慣れたこと
が挙げられています。
つまり、日本の中学生の読解力は世界的に見てもトップレベルだと言えるのです。
参照:OECD生徒の学習到達度調査 PISA2022のポイント
しかし、それで安心してはいられないある調査結果があるのです。
日本の子どもたちは読解力が高いと言えるのか?
2018年に出版された「AI vs.教科書が読めない子どもたち」には、著者の新井紀子氏が独自に作った基礎的読解力のテスト「リーディングスキルテスト(RST)」を全国の中高生25,000人を対象に行った結果について記載されています。テストは、東大合格を目指すロボット「東ロボくん」の開発途中に、人間とロボットの読解力を測るために実施されたものです。
内容には下記のようなものがあります。
「以下の文を読みなさい。
Alexは男性にも女性にも使われる名前で、女性の名Alexandraの愛称であるが、男性の名Alexanderの愛称でもある。
この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢のうちから1つ選びなさい。
Alexandraの愛称は( )である。
①Alex ②Alexander ③男性 ④女性」
この問題の正答率は、中学生(235名)は37.9%。 高校生(432名)は64.6%でした。(答えは①)
他にも主に英語と国語以外の高等学校と中学校の教科書や、小中高生向けの新聞記事などから作成された数百問の設問が作成されました。
テストは、
①「係受け」:主語と述語の関係や修飾語と被修飾語との関係を理解する力
②「照応」:「それ」「これ」などの指示代名詞が何を指しているのかが分かる力
③「同義文判定」:2つの違った文章を読み比べて意味が同じかどうかの判断ができる力
④「推論」:文章の構造を理解したうえで、生活体験や常識などを駆使して文章の意味を理解する力
⑤「イメージ固定」:文章と図形やグラフを比べて内容が一致しているかを認識する力
⑥「具体例固定(辞書)」⑦「具体例固定(数学)」:定義を読んでそれと合致する具体例を認識する力
の6分野で構成され、このうち、④~⑦はAIには意味を理解しなくてはならないため、「全く歯が立たない」問題でした。
小学校6年生〜高校2年生のテスト結果の正答率の平均は以下のとおりです。
①72.4%
②70.9%
③70.0%
④62.6%
⑤40.4%
⑥38.0%
⑦32.3%
(参考:新井紀子、「AI vs.教科書が読めない子どもたち」、東洋経済新報社、2018 年2月、213ページ「表3-7問題分野別正答率」より編集部が計算)
筆者は教科書レベルの文章を理解できていない人の多さに衝撃を受けたと言います。
「読解力」は「意味を理解しながら読めているかどうか」ともいえます。この結果から分かることは、「半数前後の中高生が教科書に書いてあることを理解していない」ということなのです。
現時点で「意味を理解する」事は、AIには今のところ難しいとされています。
身近になってきた生成AIのChatGPTは、文章の意味を理解しているのではなく、入力された単語に続く言葉のうち、統計的に正解らしい言葉をつなげていっているに過ぎないのです。
このテストはAIが苦手とされる「読解力」を測るために開発されたにも関わらず、中高生の「読解力」の低下が分かるテストとなりました。しかも、AIが得意とされる分野で高い正答率、AIが苦手とされる分野で低い正答率を示しています。
ご存じのとおり、AIはものすごいスピードで進化しています。AIと同じ分野で競っても、人間はかないません。スピード、正確さ、長時間その作業をやり続けられるなどの点で、人間よりもAIが勝ってしまうからです。
つまり、将来働くときに、AIが苦手とされる分野の能力を身につけていないと、AIに取って変わられる、もしくはAIでもできるという理由で低賃金な仕事をすることになる可能性があるということです。その能力の1つが「読解力」なのです。
読解力はなぜ必要?
「読解力」がないと何に困るでしょうか?
例えば、同じ文書を読んでも、読解力のあるAさんは内容から10の情報量を受け取り、読解力のあまりないBさんは3の情報量しか受け取れない、という事も考えられます。
「文章を読んで理解できる」なら、教科書を自分で読めば内容は理解でき、読書によっても知識を増やしていけるでしょう。
そんなAさんとBさんでは、受け取る情報量に差ができてしまいます。進学や何かをやろうとしたときにも影響があるでしょう。
「読解力」はPISAが定義した「自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発達させ、効果的に社会に参加するために」必要な能力なのです。
AIに負けない「生きる力」を子どもたちが身につけるには?
「読解力」を身につけるには?
新井氏の調査によると「読解力」について、「読書の好き嫌い、科目の得意不得意、1日のスマートフォンの利用時間や学習時間などの自己申告結果と基礎的読解力に相関はない」としています。
どうすれば「読解力」が身につくのかも、人間相手に実験をするわけにはいかないため、「これ!」という正解は言えないとしています。
それでも、現場の声などから、こうすれば読解力の向上に良い影響をもたらすのではないかという提案がされているので、少し紹介します。
幼児期
- 多様な年代の大人同士の長い会話を聞く機会を増やす
- 絵本を繰り返し読み聞かせる
- 信頼できる大人に守られていると実感を持てるようにする
- 社会に興味を持ちだしたらごっこ遊びや手伝いなどをさせる
- 日々の生活の中で自然と接する時間を取る
- 子どもが自分の関心に集中できる時間を確保する
- 同世代や少し年上の子どもたちと触れ合う機会を確保する
小学校低学年
- マスの中に丁寧に字が書けているか見守る
- 主語と述語と目的語を使って、見たことを説明できるように手助けする
- 生活習慣が乱れないように注意する
- 発達には個人差があるため、程よい距離で見守りながら手助けをする
小学校中学年
- 板書の分量を増やす(1時間に3分ぐらいは集中して板書を写す時間を設ける)
- 国語以外の理科や社会の教科書の音読をする
- 読書を奨励する
- 第三者に正確に伝わる表現を工夫できるようにする
- 理科と社会が始まるため、生活体験を抽象概念に繋いでいく基礎になるように具体例や理由を口頭で説明させる
- 集中力をコントロールしたり手順を確認したりすることが必要な遊び(プラモデル、編み物、ジェンガなど)を提案してもよ
- 「相対」の概念である割り算や分数の学習が始まるため、つまづかないように注意する
- 暗記だけではなく論理的に考えさせる
- テストで記述式の問題の答え合わせをする際に、間違えている場合は消しゴムは使わず赤で修正し、なぜ同じ意味にならないかを論理的に説明させる
- 「見たこと・体験したこと」についてメモを取り、時系列で正確に文字や図、表やグラフなどを使ってレポートとして表現できるようにする。「~が面白かった」「~と思った」は余り使わないように制限する
- 図工で「見たとおりに描く」活動をさせる
小学校高学年
- 発達の差が縮まってくるため、穴埋めプリントやドリルなどから徐々に卒業し、板書をリアルタイムで移せるように指導する
- 新聞を読み上げさせ、ニュースの要約や感想を200字程度200字程度で書かせる
- 文章を省かずに説明させる。「先生、紙」ではなく「先生、紙をください」など
- 算数で定義がでてきたら「~とは」と説明させる事を繰り返す
- 箇条書きで手順を表現できるようにする
- 算数の文章問題において、その問題に関する図形を描けるかをチェックし、難しい場合は、算数や理科の教科書の音読、定義の口頭での説明、分数から概念構築のやり直しなどをさせる
- 推論能力を活用できるようにサポートする(社会で平野などの名前が出てきたら、日本地図を開いてどの場所にあるかを確認し、その辺りはどんな理由でどんな気候になるのか、どうして河川と平野ができるか、平野ができるとどんなメリットがあるかなどを論理的に説明させる)
- 複数の段落からなる文章を200字程度にまとめさせる
- 「とても」「すごく」「思った」「良かった」などの定型的な文体を使わずに表現させる
参考:新井紀子、「AI に負けない子どもを育てる」、東洋経済新報社、2019 年9月
それぞれの提案から、家庭でできそうな事は
- 子どもと会話をたくさんする
- 絵本の読み聞かせを行う
- 国語以外の本の音読をする
- 子どもが読んだ本を要約して教えてもらう
- 物語や図鑑だけではなく、新聞なども読む
- 分からない言葉が出てきたらそのままにしないで辞書を引く
- 高学年になったら、読んだ文章を要約して書く
などが挙げられそうです。
なお、「読解力」を高めるためには、速く読もうとするのではなく、意味を理解しながら読もうとすることが大切です。
読んだ内容を本当に理解できているのか、口頭で教えてもらうことで確認もできるでしょう。
子どもの望む未来のために必要な「読解力」
本書には、「基礎読解力が低いと、偏差値の高い高校には入れない」といえるとしています。
もちろん、「読解力」は偏差値の高い学校に進学するためにも必要です。
しかし、それだけではありません。
子どもが自分の興味のあることについて知識を深めたいとき、やりたい事をするにはどうすればいいかと論理的に考えようとするとき、「読解力」はその基礎になるのです。
進学のためだけではなく、人生でずっと使えて有用な「読解力」。何歳からでも伸ばせるそうなので、できることからやっていきたいですね。
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