小学校のプログラミング教育の現状とは?今後の課題についても解説!
小学校におけるプログラミング教育が必修化されて3年が経ちました。
2024年度から使われる小学校の教科書では幅広い教科に渡ってプログラミング教育に関連する記述がみられます。実際の授業にはどのように取り入れられ、子どもたちはどのように学んでいるのか気になるところですね。
この記事では、小学校のプログラミング教育の現状と今後の課題点についてお伝えします。
また、プログラミング教育によって育まれる能力はどのようなものかもあらためて解説します。
プログラミング教育とは
2020年から小学校で必修化されたプログラミング教育はいわゆる「教科」ではありません。
「小学校プログラミング教育の手引き」における指導例の対象範囲について
参照:「小学校プログラミング教育の手引き(第三版)」文部科学省
上記の図のように、「国語」「算数」のような既存の教科の中でプログラミング教育が行われます。
「小学校プログラミング教育の手引き」によると、プログラミング教育のねらいは下記のようになっています。
1.「プログラミング的思考」を育むこと
2.プログラムの働きやよさ、情報社会がコンピューターなどの情報技術によって支えられていることなどに気づくことができるようにするとともに、コンピューターなどを上手に活用して身近な問題を解決したり、よりよい社会を築いたりしようとする態度を育むこと
3.各教科などの内容を指導する中で実施する場合には、各教科などでの学びをより確実なものとすること
つまり、小学校のプログラミング教育では、実際にプログラムを組むのではなく、プログラミング的思考を育むことが重視されているのです。
くわえて、プログラミング教育は、その教科の学習の理解をより深めるためともされています。
例えば、小学5年生の算数の「多角形の作図」。手書きで書くだけでなく、プログラミングを使用して作図します。簡単に正確に作図するにはコンピューターにどんな順序で命令を出すとよいのかを学び、角度や辺の長さの数値を入力することにより多角形の構成要素について深く学べます。
プログラミング教育は、小学校に続いて、中学校では2021年度から、高校では2022年度から必修化され、高校では、「情報Ⅰ」という科目が新設され、実際にプログラミング言語を使ってプログラミングします。
小学校で学ぶ「プログラミング的思考」は高校で行うプログラミングの素地となるのです。
また、今後は、大学入試にもプログラミングを含む「情報」の分野が追加されることが予定されています。
小学校でプログラミング教育が始まった理由についてはこちらの記事もご覧ください。
完全解説!小学校からプログラミング教育が始まった理由は発達にあった?
文部科学省のねらいについてはこちら!
小学校のプログラミング教育がいよいよ開始!文部科学省のねらいは?
プログラミング教育で育む資質・能力
「プログラミング的思考」を育むことでどんな資質や能力が伸びるのでしょうか?
それは
1.知識及び技能
2.思考力、判断力、表現力など
3.学びに向かう力、人間性
とされています。
1.知識及び技能
情報社会に生きる子どもたちが、コンピューターにどう指示を出せば意図したように動くのかを学ぶ過程で、下記について「気づく」ことが重要視されています。
- コンピューターはプログラミングで動いている
- プログラムは人が作成している
- コンピューターには得意な事と苦手なことがある
2.思考力、判断力、表現力など
有識者会議「議論のとりまとめ」によるとプログラミング教育で育む思考力、判断力、表現力など「発達の段階に即して「プログラミング的思考」を育成すること」とされています。
プログラミング的思考とは、コンピューターに意図した動きをさせるために
- どんな動きの組み合わせが必要か
- 動きに対応した記号をどのように組み合わせるのか
- 記号の組み合わせをどう改善すればより意図した活動に近づくのか
を論理的に考えていく力のことです。
3.学びに向かう力、人間性
学びに向かう力や人間性として、下記のような態度を養うことが重要視されています。
- 子どもにとって身近な問題の発見・解決にコンピューターの働きを活かそうとする
- コンピューターなどを上手に活用してよりよい社会を築こうとする
- それに主体的に取り組む態度を養っていく
- 他者と協力しながら、粘り強くやりぬく態度を育む
- 著作権などの自他の権利を尊重したり、情報セキュリティの確保に気をつけるなどの情報モラルの育成
これらは情報社会に生きる子どもたちにとって必要不可欠と言えます。
プログラミング教育の現状
プログラミング教育が小学校教育に取り入れられてから3年。小学校ではどのような現状になっているのでしょうか。
児童一人当たりのパソコン台数がほぼ1台に
教育用コンピューター1台当たりの児童生徒数
(出典:「令和3年度学校に置ける教育の情報化の実態等に関する調査結果(概要)」文部科学省より)
こちらの表は教育用コンピューター1台当たりの児童生徒数を表しています。
プログラミング教育が必修化された令和2年から急激に数が伸び、現在ではコンピューター1台当たりの児童生徒数は0.9人となっています。
都道府県別 教育用コンピューター1台当たりの児童生徒数
(出典:「令和3年度学校に置ける教育の情報化の実態等に関する調査結果(概要)」文部科学省より)
都道府県別に見ても最低値はコンピューター1台当たり1.1人となっており、ほぼ、「1人に1台」コンピューターが整備されている状況と言えそうです。
教科書にプログラミングに関する表記が増加
2024年から小学校で使われる教科書には、プログラミングに関連が深いと思われる「算数」の他にも、多くの教科にわたって記載がされています。
例えば「国語」では身近な課題の解決に関するプログラマーの文章が掲載されていたり、ごみ問題についてプログラミング思考を使って課題を細分化し解決策を探る内容だったり。
他にも「理科」では照明の動作を考えたり、「家庭科」では家電製品の仕組みを紹介していたりします。
学校によって学習レベルに差
プログラミング教育が必修化になったとはいえ、内容は各学校に任されています。
つまり、学校によって、指導する教員によって取り組みに差が出てきてしまうのです。
また、教員は「プログラミング教育」をするために研修を受ける必要がありますが、その受講率も学校や都道府県によってばらつきがあります。
下記のグラフは令和3年度中にICT活用指導力の各項目に関する研修を受講した教員の割合を示しています。
受講率は54.5%~96.6%と都道府県によって差が出ているのがわかります。
令和3年度中にICT活用指導力の各項目に関する研修を受講した教員の割合(都道府県別)
出典:「令和3年度学校に置ける教育の情報化の実態等に関する調査結果(概要)」文部科学省より
子どもたちもコンピューターの扱いに慣れてきた
実際の学習では、授業で習ったことをコンピューター上のドリルで復習したり、調べ学習に活用したり、高学年になると発表のためのスライドを作成したりと、子どもたちもコンピューターの扱いになれてきたようです。
また、コロナ禍で風邪症状がある場合には欠席することとされているため、コロナ禍以前よりも欠席することが増えましたが、当日の連絡でもオンライン授業を受けられるようになった学校もあります。
プログラミング教育の今後の課題
プログラミング教育によって子どもたちがコンピューターを使いこなし始めた一方、課題も見えてきました。
科目の学習時間の減少と教員の負担の増加
小学校のプログラミング教育は既存の教科の勉強の中で行われます。
そのため、既存の学習の時間が少なくなってしまうことも。
指導する教員も、既存の教科の準備に加えてプログラミングを活用した授業の準備をしなければならず、負担が増加しています。
子どもたちの集中力の欠如
学習にタブレットなどのコンピューターを使うことで、子どもたちの集中力がそがれてしまうこともあります。
学習よりも、コンピューターを触るのが楽しいとなってしまうからです。
学習内容を充実させたままプログラミング教育を取り入れることが求められています。
ネットリテラシーの普及
子どもたちはコンピューターを貸与されることで、いつでもインターネットに接続できる環境になりました。
ネットリテラシーの向上も同時に測らなければ、不適切なサイトを開いてしまったり、インターネット上のいじめなどにもつながったりする恐れがあります。
ネットリテラシーとは?小学生から学べるコンテンツや書籍もご紹介!
手書きする機会の減少
コンピューターを使用することで、手書きで学習する機会が減ることが懸念されます。
手書きは、記憶の定着や脳機能の向上に良い影響を及ぼすといわれています。
手書き学習とデジタルでの学習、それぞれの長所を組み合わせていかなければなりません。
子どもが長時間画面を見続けてしまう
コンピューターを貸与され、子どもがコンピューターをいつでも自由に使える環境になりました。学校から「ゲームをしない」などと決められていても、無料でできるゲームを見つけてしまったり、ネットサーフィンなどで長時間画面を見続けてしまったりします。
目の健康や、インターネットとの付き合い方なども子どもたちに理解してもらう必要があります。
コンピューターとの健全な関わりには家庭での取り組みが重要
小学校の授業でコンピューターを使うときは時間や内容が定められていることが多いため、子どもたちが自由に使えるわけではありません。
しかし、貸与されたコンピューターを家に持って帰ってくると、子どもが自由に使える状況になります。
際限なくネットサーフィンをしたり、ゲームをしたりしていては、睡眠不足、生活リズムの崩れなど、子どもたちにとって好ましくない影響が出ることもあります。
コンピューターは便利に使える一方、注意しなければならないことがあることを子どもとよく話し合い、小学校任せにするのではなく家庭内でルールを定めるなどの手段を取る必要がありそうです。
上手にコンピューターを使って情報社会を生き抜く力を子どもたちに身につけてほしいですね。
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